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ハルムスの

詩の

世界

 ハルムスは長らく子供の詩を書く作家として有名でした。それは、ハルムスが望んでそうなったわけはなく、大人用に書いた詩はすべて検問を通らなかったからでした。ハルムスは大人むけの実験的な詩で成功することを切望していましたが、生前には叶わず、ここで目にする大人のための詩は、すべて小さなサークルの中で公開されたか、または死後に発表されたものです。
訳者として、ハルムスの詩に触れるとき、私はしばしば首を傾げます。ハルムスの目指していたものは、「音のジェスチャー」、「意味のある無意味」といったものでした。音のジェスチャー、というのは、音が言葉によって意味を構成するのではなく、音だけで何かの意味を表現している、ということだと思います。日本人はよく擬音語を使う民族ですから、これは私たちにはわかりやすい概念かもしれません。ハルムスの詩は、実際、豊かな音の世界でもあるのです。ただ、音というのは各言語によって個別ですし、そのジェスチャーも人によって異なるでしょう。翻訳するのは大変な苦労です。
 「意味のある無意味」というのは、ハルムスを考える上で、大変に面白い言葉だと思います。意味はない。が、意味を持っている。
ハルムスの詩を読むと、「く、くだらない・・・」と呆気にとられることが幾度もあります。意味がどうしてもわからない時もあります。けれど、翻訳する上で、最初に解釈をして、何度も試行錯誤を繰り返しながら読み返すうちに、作品世界が自分の内面によって、がらりと変わってしまうことに気がつくこともあります。その時私にとってのハルムスの詩は、無意味だけれども、意味を持ちはじめるのです。












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