アレクサンドル・イワーノヴィッチ・ドゥードキン
もう朝の七時になるぞ。雄鶏はもうとっくに鳴いた。
なにゆえこんなに早く目覚めたのだろうなあ?
こんなことは未だかつてなかったのに。
しかしおれの頭はどうしたのだろう? 恐ろしく痛む。
昨日飲んだっけ? いや、飲んでいない。
なにゆえ頭が痛むのだろうなあ? ああでもない、こうでもない。
こんなことは未だかつてなかったのに。
さっさと起き上がって顔を洗ってしまおう。
冷たい水で頭を洗えば気持ちいいだろう。
ペラゲーヤを起こさなきゃならん、さもないとあいつは
おれがまだ眠っていると思うだろうから。
こんな早朝に目覚めなきゃならんとは!
おいペラゲーヤ!(壁を叩く)ペラゲーヤ!
ペラゲーヤ!
くそばばあ!惰眠をむさぼってやがる。いいや、
長靴か何か、重いものを持って、
目が覚めるまで壁を殴り続けてやるぞ。―
畜生め!長靴はどこだ?
これをどう考えるべきか。ははは。
長靴でやってきて、脱いで、あそこへ置いたというのに、今はない。
おっと!ズボンもじゃないか!おやおやおや。実際問題、おれはどうしちゃったのかな!
耄碌したか?
こんなことは未だかつてなかったのに!
まあいいさ、放っておこう。
ちょっと考えてみなくちゃ。頭が痛む。つまりおれは
ものすごく早く目覚めたということだ。頭が痛むということは、
要するにおれは昨日何かしたんだな・・・いや。
とても早く起きた、頭が痛い。
ということは長靴をなくしたってことか?
ばかな!
長靴をなくしたことがイコール、頭が痛いってことなんじゃないか?
これもばかばかしい!
まあいいさ。頭が痛い、イコール、
おれは長靴をなくしていない。
しかしおれは長靴をなくしているじゃないか!
こうもいえる。頭が痛むということは、つまり、
おれは長靴をどうもこうもしない。
ふむ。
難しい問題だ。
二章
ドアノック。
ドゥードキン:どなた?
声 :ああ、おれだ、おれだよ
ドゥードキン:誰?ペーチカ?
声 :おう、そうだ、早く開けてくれよ!
ドゥードキン:今、今。ちょっとだけ待ってくれよ。
声 :はやく、はやく、あっと驚くようなことを聞かせてやるよ!クソ驚くぞ!
すごい事を知っているんだ・・・・。
ヴァラーモフ:まだ眠ってるのか?
ドゥードキン:今何時だろう、おそいのか?
ヴァラーモフ:すすす・・・おそい?時間なんてクソだ!なあ、このバカ・・・
ドゥード :― なに?・・・
・・・え?・・・
・・・なにが?
ヴァラ:おまえ、おまえは・・・おまえは一番の金持ちになったんだぞ!
ドゥード:うん?
ヴァラ:うんってなんだよ?! 20万も当たったんだぞ!
ドゥード:( Bを眺めながら、黙って立っている)
ヴァラ:何を突っ立っているんだよ?バカ。服を着ろよ、銀行へひとっ走りだ。
ドゥード:着るものが何にもないよ。
ヴァラ:着るものが何にもないだと?
ドゥード:昨日帰ってきたとき、全部椅子の上に置いたんだけど、何もないんだ。
ヴァラ:じゃあどこにあるんだよ?
ドゥード:知らないよ。
ヴァラ:ああ、くそったれ、20万が当たったんだぞ!はやく行こうよ!
ドゥード:だけど何を着ていけばいいんだよ?
ヴァラーモフとドゥードキン、舞台前方へ
ヴァラーモフ:このまま行けよ!
ドゥード :このままは良くないよ!
ヴァラーモフ:じゃあおれの背広を着ていけ!
ドゥードキン:お前は?
ヴァラ :おれはお前のコートを着ていくよ!
ドゥード :それならおれが自分のコートで行ったほうがいいだろ!
ヴァラ :どっちでもいいよ!自分のコートで行けよ。
ドゥード :お前は自分の背広で行くのかい?
ヴァラ :おれは自分の背広で行くよ。
ドゥード :(くちごもりながら)―
(1927)